内面の声とキャリアを一致させる。自分軸で仕事を進める実践的方法
仕事における外部からの期待と内面の声のギャップ
ビジネスの現場では、私たちは常に様々な期待に囲まれています。上司からの成果目標、チームメンバーからの役割期待、顧客からの要望、そして社会全体の「ビジネスパーソンかくあるべし」という無言の圧力など、外部からの期待は多岐にわたります。これらの期待に応えることは、組織の一員として、あるいはプロフェッショナルとして当然求められることです。
しかし、同時に、私たちは自身の内面から湧き上がる声にも気づくことがあります。それは、「本当にやりたいことは何か」「何に価値を感じるのか」「どのような働き方をしたいのか」といった、個人的な願望や価値観に基づいた声です。
この外部からの期待と内面の声との間にギャップが生じると、多くのビジネスパーソンは閉塞感や満たされない感覚を抱えることになります。求められる役割をこなすほどに、自身の内面から離れていくように感じたり、達成感はあるものの、深い充足感が得られなかったりする状態です。このギャップを放置すると、仕事へのモチベーション低下や、キャリアに対する漠然とした不安につながりかねません。
なぜギャップは生まれるのか?
このようなギャップが生まれる背景にはいくつかの要因が考えられます。
一つは、外部評価への過度な依存です。私たちは社会的な動物であり、他者からの承認や評価を求めるのは自然なことです。しかし、この評価を自己価値の唯一の基準としてしまうと、内面の声よりも外部の期待を優先するようになります。
次に、自己内省の不足が挙げられます。自身の価値観や本当に大切にしたいことについて深く考える機会が少ないと、内面の声そのものが曖昧になり、外部の期待との比較検討が難しくなります。
また、自身の価値観の不明確さも大きな要因です。たとえ内面の声に耳を傾けようとしても、自身の核となる価値観が明確でないと、それが何を意味するのか、キャリアとどう結びつくのかを理解することができません。
さらに、組織文化や職務内容とのミスマッチも無視できません。個人の価値観と、所属する組織が重視する文化や、担当している職務内容が大きく乖離している場合、意識的に内面の声に蓋をしないと、日々の業務をこなすことが難しくなると感じることもあるかもしれません。
内面の声とキャリアを一致させるための実践ステップ
このギャップを埋め、内面の声とキャリアを一致させ、「自分軸」で仕事を進めるためには、意図的かつ継続的な取り組みが必要です。ここでは、そのための具体的な実践ステップを提案します。
ステップ1:内面の声・価値観の再確認
まずは、自身の内面にある声や核となる価値観を改めて深く理解することから始めます。これは、既存の記事でも触れている内容と関連しますが、キャリアとの関連をより意識して行います。
- 過去の経験の棚卸し: これまでの仕事やプライベートの経験の中で、「楽しかった」「やりがいを感じた」「なぜか心が動いた」といったポジティブな経験と、「苦痛だった」「納得できなかった」「何かが違うと感じた」といったネガティブな経験をリストアップします。それぞれの経験について、「なぜそう感じたのか?」を掘り下げて考えます。
- 重要なテーマの特定: リストアップした経験から共通するテーマやパターンを見つけ出します。例えば、「人の成長をサポートすることに喜びを感じる」「複雑な問題を整理して解決することに没頭できる」「ルールや常識にとらわれず、新しい方法を試したい」などです。これらが、あなたの内面の声や価値観と深く関連している可能性があります。
- 価値観キーワードの抽出: 特定したテーマを表現するキーワードをいくつか抽出します。「成長支援」「問題解決」「創造性」「貢献」「安定」「自由」など、あなたにとって特に重要だと思える言葉を選びます。
ステップ2:外部からの期待と内面の声のギャップを具体的に特定する
次に、現在の仕事やキャリアにおいて、外部からの期待がどのようなものであり、それと自身の内面の声(ステップ1で明確にした価値観や願望)との間にどのようなギャップがあるのかを具体的に洗い出します。
- 現在の「外部からの期待」を書き出す: 現在あなたが所属する部署、担当するプロジェクト、役職などにおいて、周囲から期待されていること、求められている成果や役割を具体的にリストアップします。「〇〇の売上目標達成」「△△プロジェクトの成功」「チームをまとめること」「ルーチンワークを正確にこなすこと」などです。
- 「内面の声/価値観」と「外部からの期待」を比較する: リストアップした外部からの期待の一つ一つに対して、ステップ1で明確にした自身の内面の声や価値観と照らし合わせます。「この期待に応えることは、私の『貢献』という価値観と一致する」「この役割は、『創造性』を発揮したいという内面の声とは少しずれている」「この業務は、『成長支援』という関心とは直接関係ない」のように、一致している点、ギャップがある点を具体的に特定します。
ステップ3:ギャップを埋めるための具体的な行動計画を策定する
ギャップが特定できたら、それをどのように埋めていくか、具体的な行動計画を立てます。これは、必ずしも転職や大幅な環境変化を伴う必要はありません。現在の状況の中でできることから始めるのが現実的です。
- 「自分軸」を発揮できる部分を見つける・創り出す: 現在の業務や役割の中に、内面の声や価値観を活かせる部分がないかを探します。もし見つからなければ、小さな範囲でも良いので、主体的に新しい取り組みを提案したり、既存の業務の進め方を工夫したりすることで、自分らしさを発揮できる機会を創り出せないかを検討します。例えば、「ルーチンワークの中に効率化の視点を取り入れ、『問題解決』の価値観を活かす」「チーム内のコミュニケーションを改善する提案を行い、『成長支援』や『貢献』を実現する」などです。
- 役割の再定義や交渉: もし可能であれば、上司や関係者と対話し、自身の強みや関心(内面の声に基づいたもの)をより活かせるように、役割の一部を調整したり、新しい役割を引き受けたりする交渉を検討します。ただし、これは組織の状況や人間関係を十分に考慮して慎重に行う必要があります。
- 貢献の仕方の工夫: 求められる成果を出しつつも、そのプロセスや手段において、自身の内面の声が喜ぶやり方を取り入れます。例えば、「データ分析の精度を上げることで『真実追究』の価値観を満たす」「チームメンバーとの協力を通じて成果を出すことで『共創』の価値観を満たす」などです。
- スキルアップや学習の方向性: 内面の声が指し示す方向に関連するスキルや知識を積極的に学びます。これが、将来的に内面の声とキャリアをより一致させていくための基盤となります。
- 社内外での関わり方の調整: 参加する会議やプロジェクト、関わる人を選んだり、仕事以外の時間で内面の声を満たす活動(副業、プロボノ、趣味など)を行ったりすることも有効です。
ステップ4:小さな一歩から実践し、効果を検証・修正する
計画を立てたら、完璧を目指すのではなく、まずは実行可能な小さな一歩から踏み出します。そして、その実践を通じて得られる感覚や結果を注意深く観察し、計画を検証・修正していきます。
- 実行と記録: 立てた行動計画に基づき、週に一度、あるいは毎日決まった時間に、内面の声に沿った行動を意識して実行します。実行したこと、その時に感じたこと、気づきなどを記録しておくと良いでしょう。
- 効果の検証: 計画を実行したことで、仕事への取り組み方、感情、周囲の反応などにどのような変化があったかを検証します。内面の声とのギャップはどの程度埋まったか、新たな課題は見つかったかなどを振り返ります。
- 計画の修正: 検証結果に基づき、行動計画を修正します。うまくいかなかったことは改善策を考え、うまくいったことはさらに発展させる方法を探ります。このプロセスを繰り返すことで、より効果的に内面の声とキャリアを一致させていくことができます。
実践のポイント
このプロセスは一朝一夕に完了するものではありません。継続的に内面の声に耳を傾け、外部の期待との間でバランスを取りながら、柔軟に自身のキャリアを調整していく姿勢が重要です。
- 完璧を目指さない: すべてのギャップを一度に埋めることは難しい場合があります。まずは、影響が大きい部分や、自分にとって重要度の高い価値観に関連する部分から取り組むと良いでしょう。
- 周囲とのコミュニケーション: 自分の意図や価値観を適切に周囲に伝えることも、自分軸で仕事を進める上で重要です。すべてを話す必要はありませんが、仕事への貢献の仕方や関心事についてオープンにすることで、協力を得やすくなることがあります。
- 視点を変える: 外部から「Must Do」(やらなければならないこと)として与えられた仕事に対しても、「Can Do」(自分ならできること)や「Want Do」(やりたいこと)の視点を取り入れ、自身の強みや関心をどう活かせるかを考えることで、主体的に取り組む余地が生まれます。
- 内面の声に耳を傾け続ける習慣: 定期的に自己内省の時間を持ち、自身の心の状態や価値観の変化に気づく習慣を身につけることが不可欠です。
まとめ
仕事における外部からの期待と自身の内面の声との間のギャップは、多くのビジネスパーソンが直面する課題です。しかし、自身の内面の声や核となる価値観を明確にし、外部からの期待とのギャップを具体的に特定し、そして具体的な行動計画を立てて実践・検証することで、このギャップを埋め、内面の声とキャリアを一致させていくことは十分に可能です。
これは、自身のキャリアを他律的なものから自律的なものへと変革し、表面的な成果だけでなく、深い充足感とやりがいを持って働くための重要なプロセスです。一度きりの分析で終わらせず、継続的な自己探求と実践を通じて、「自分軸」で仕事を進める確固たる基盤を築いていきましょう。