自分軸で語る。あなたの考えを正確に伝え、理解を得る実践メソッド
自分軸を持つことと、それを伝えることの重要性
外部の期待や社会的な圧力に流されず、確固たる自分軸を持つことは、キャリアや人生において非常に重要です。自分軸を持つことで、自身の内なる声に耳を澄ませ、価値観に基づいた意思決定が可能になります。しかし、自分軸が明確になったからといって、それが必ずしも他者との円滑なコミュニケーションを保証するわけではありません。むしろ、自分の考えや価値観が明確になるほど、他者との間に認識のズレや意見の相違が生じやすくなることもあります。
ビジネスの現場では、多様な価値観を持つ人々との協働が不可欠です。自分の考えやプロジェクトの方針を正確に伝え、他者の理解と協力を得ることは、目標達成のために避けては通れない課題です。自分軸を保ちつつ、どのようにすれば他者に自分の考えを効果的に伝え、関係性を損なうことなく、むしろ信頼を深めることができるのでしょうか。
本記事では、自分軸を確立した個人が、その考えや価値観を他者に正確に伝え、理解を得るための実践的なメソッドをご紹介します。
自分軸を持つ人が直面しうるコミュニケーションの課題
自分軸を持つことは、他者の意見や評価に過度に影響されなくなるという点で強力です。しかし、その裏返しとして、以下のようなコミュニケーション上の課題に直面することがあります。
- 価値観の相違による摩擦: 自分の核となる価値観に基づいた意見や提案が、組織の文化や他者の価値観と大きく異なる場合、衝突や反発を生む可能性があります。
- 熱意や意図が伝わりにくい: 自分の考えに確信を持っているゆえに、その背景にある思考プロセスや重要性が、他者には十分に伝わらず、独りよがりだと捉えられることがあります。
- 一方的なコミュニケーション: 自分の考えが整理されているため、他者の話を聞くよりも自分の意見を話すことに終始し、対話ではなく一方的な情報伝達になってしまうことがあります。
- 「当たり前」のズレ: 自分にとっては「当たり前」と思える価値観や判断基準が、他者にとっては全く異なるものであり、その前提のズレがコミュニケーションを難しくします。
これらの課題を乗り越え、自分軸を保ちながら他者との理解を深めるためには、意図的かつ構造的なコミュニケーションのアプローチが必要となります。
自分軸を保ちながら、他者に考えを伝えるための実践メソッド
自分の考えを正確に伝え、理解を得るためには、いくつかのステップを踏むことが有効です。以下に、実践的なメソッドをご紹介します。
ステップ1:自分の考え・価値観を明確に整理し、言語化する
他者に何かを伝える前に、まず自分自身が何を考え、なぜそう考えるのかを明確にすることが不可欠です。これは、単に意見を持つということではなく、その意見がどのような事実に基づき、どのような価値観や目的から来ているのかを深く掘り下げる作業です。
- 内省: なぜこの考えに至ったのか? その根拠は何か? どのような結果を目指しているのか? どのような価値観がこの考えを支えているのか? といった問いを立て、自身の思考を深掘りします。
- 言語化: 整理した思考や感情を、具体的で曖昧さのない言葉に変換します。このとき、専門用語や抽象的な表現は避け、誰にでも理解できる言葉を選ぶように努めます。書き出す、話してみる、といった方法が有効です。
ステップ2:相手の状況・価値観・関心事を理解する
自分の考えを伝える相手が、どのような立場にあり、どのような知識や経験を持ち、何に関心があるのかを理解することは、効果的なコミュニケーションの鍵です。相手の「レンズ」を通して、自分の考えがどう見えるかを想像します。
- 傾聴: 相手の話を真摯に聞き、背景にある考えや感情を理解しようと努めます。「アクティブリスニング」の手法(相槌、要約、言い換えなど)が有効です。
- 質問: 相手の考えや状況について、具体的な質問をすることで理解を深めます。「どのような点に関心がありますか?」「この件について、どのように感じていますか?」といった開かれた質問が有効です。
- 視点の切り替え: 自分の視点だけでなく、相手の立場や組織全体の視点から状況を捉え直します。
ステップ3:自分軸と相手の視点を踏まえた「共通言語」を探す・構築する
自分の考えをそのままぶつけるのではなく、ステップ1で明確にした自身の考えと、ステップ2で理解した相手の状況を結びつける「共通言語」を見つけ出します。これは、相手が関心を持つであろうメリット、共有する課題認識、組織の目標など、双方にとって意味のある接点です。
- 相手のメリットを提示: 自分の提案が、相手や組織にとってどのような利益をもたらすのかを具体的に示します。
- 共有する課題に基づいた提案: 共に解決すべき課題や目標がある場合、それに対する自分の考えや提案として提示します。
- 比喩や例え話: 複雑な考えを伝える際に、相手にとって馴染みのある比喩や具体的な例え話を用いることで、理解を助けます。
ステップ4:構造化して論理的に伝える
整理された自分の考えを、相手に分かりやすいように構造化して伝えます。論理的な構成で伝えることで、聞き手は話の全体像を掴みやすく、内容をスムーズに理解することができます。
- 結論先行: 最初に結論を述べ、その後に理由や根拠、具体的な内容を説明する「結論先行」の構成は、ビジネスシーンで非常に有効です(例: PREP法 - Point, Reason, Example, Point)。
- 情報の階層化: 重要な情報から順に伝え、必要に応じて詳細を補足します。
- 具体的な根拠を提示: 自分の意見や提案を裏付けるデータ、事実、具体的な事例などを提示することで、説得力が増します。
ステップ5:感情と客観的事実を区別して伝える
自分の考えには、往々にして感情が伴います。情熱を持って語ることは重要ですが、感情的な表現だけでは客観性や論理性が失われ、他者の理解を得るのが難しくなることがあります。
- 事実に基づいた説明: まずは客観的な事実や状況を明確に伝えます。
- 感情の背景を説明: その事実や状況に対して、自分がどのように感じ、なぜそのような感情に至ったのかを説明することで、単なる感情論ではなく、自分の内面が理解されやすくなります。
ステップ6:フィードバックを受け止め、対話を深める
自分の考えを伝えた後、相手からのフィードバックを真摯に受け止めることが重要です。相手の疑問や懸念に耳を傾け、それに対して丁寧に答えることで、一方的な情報伝達ではなく、双方向の対話が生まれます。
- 質問を歓迎: 相手からの質問を歓迎し、理解を深める機会として捉えます。
- 異なる意見への対応: 異なる意見が出た場合でも、それを否定するのではなく、「〇〇という視点もありますね」と一度受け止め、なぜ自分がそのように考えるのか、違いがどこにあるのかを冷静に話し合います。
実践例:会議での提案
例えば、あなたが自分軸に基づき、「現在の業務プロセスは非効率であり、〇〇という新しいツールを導入すべきだ」という考えを持ったとします。この考えを会議で伝える際、単に「このツールは素晴らしいから導入すべきです」とだけ伝えても、自分軸は反映されていても、他者の理解や賛同は得にくいかもしれません。
上記メソッドに沿ってアプローチする場合:
- 自己整理: なぜ非効率だと感じるのか(具体的なデータ)、ツールの導入によって何が改善されるのか(具体的な効果)、それは自身のどのような価値観(例: 効率性、生産性向上)に基づいているのかを明確にします。
- 相手理解: 会議の参加者は誰か? 彼らは現在のプロセスについてどう感じているか? 新しいツールの導入に際して、どのような懸念(例: 費用、学習コスト、変化への抵抗)を持つ可能性があるか? を想定します。
- 共通言語: 組織全体として目指している目標(例: コスト削減、納期短縮)と、ツールの導入がどのように貢献するかを結びつけます。共通の課題意識(例: 長時間労働の改善)を共有します。
- 構造化: 結論(新しいツールの導入を提案)→ 理由(現在のプロセスの具体的な非効率性、データ提示)→ 提案内容(ツールの概要、期待される効果、導入スケジュール案)→ 質疑応答、という流れで論理的に構成します。PREP法を活用するのも良いでしょう。
- 感情と事実: 非効率なプロセスへの自身のフラストレーションは抑え、具体的なデータや事実に基づいて問題点を説明します。ツール導入によって得られるポジティブな変化への期待は述べつつも、冷静に論点を展開します。
- 対話: 費用対効果、導入に伴うリスク、学習コストなどの懸念について、相手からの質問を歓迎し、事前に準備した回答や、共に解決策を探る姿勢を示します。
このように、自分軸で定めた考えを、一方的に押し付けるのではなく、他者の視点を踏まえ、論理的かつ構造的に伝えることで、理解と共感を得やすくなります。
まとめ:自分軸コミュニケーションの継続的な実践
自分軸で語り、他者との理解を深めることは、一度学べば終わりというものではありません。日々のコミュニケーションの中で意識的に実践し、試行錯誤を重ねることで、徐々に洗練されていきます。
重要なのは、自分の考えを正直に伝えることと、相手を尊重し、対話を大切にすることのバランスです。自分軸をしっかりと持ちつつ、相手の立場や感情にも配慮したコミュニケーションを心がけることで、周囲との関係性をより豊かにし、自分自身のキャリアや人生を主体的に切り拓いていくことができるでしょう。外部に流されることなく、内なる声に基づいた「自分の言葉」で語り、他者との間に確かな信頼関係を築いていきましょう。