自分軸を理解し、多様な価値観を持つ他者と協働するための実践メソッド
はじめに
キャリアを積むにつれて、私たちは様々な他者と関わりながら仕事を進める機会が増えてまいります。チームでのプロジェクト、部門間の連携、あるいは顧客との折衝など、協働は多くのビジネスシーンで不可欠な要素です。その一方で、「外部に流されない確固たる自分」を築こうとする過程で、チームの期待と自身の価値観との間で葛藤を感じたり、他者の意見に影響されすぎて自分を見失いそうになったりすることもあるかもしれません。
自分軸は、単に個人的な内面の羅針盤に留まるものではありません。自分自身の核となる価値観や強みを理解することは、他者との建設的な関係を築き、多様な意見が飛び交う環境の中で、自身の役割を明確にし、チーム全体の目標達成に貢献するためにも非常に重要となります。本記事では、自分軸を理解し、それを他者との協働にどのように活かしていくかについて、実践的なメソッドをご紹介いたします。
なぜ、協働において自分軸の理解が重要なのか
私たちはそれぞれ異なる背景、価値観、強み、そして働き方を持っています。多様な人々が集まるチームでは、意見の衝突やコミュニケーションの齟齬が生じることも少なくありません。このような状況で自分軸が不明確だと、以下のような課題に直面しやすくなります。
- 他者の意見に過度に影響される: 自身の考えや立場が曖昧になり、周囲の意見に流されてしまう。
- 貢献の方向性が見えにくい: 自身の強みや得意なことをチームの中でどう活かせるか分からず、貢献感を得にくい。
- 無理が生じる: 自身の価値観やペースに合わない行動を続け、疲弊してしまう。
- 衝突を避けすぎる、あるいは起こしすぎる: 自分の意見を適切に主張できず不満が募るか、逆に自分を押し通そうとして軋轢を生む。
自分軸を理解することは、これらの課題を乗り越えるための土台となります。自身の価値観を明確にすることで、何に同意し、何に同意できないのか、どのような貢献ができるのかを自分で判断できるようになります。また、自身の「普通」が他者の「普通」とは異なることを理解することで、他者の多様な価値観や考え方を受け入れやすくなり、より建設的な協働が可能となります。
自分軸を理解し、他者と協働するための実践メソッド
ステップ1:自身の「自分軸」を言語化する内省
まずは、協働の土台となる自身の自分軸を深く理解することから始めます。これまでのキャリアや経験を振り返り、以下のような問いについて内省し、言葉にしてみましょう。
- あなたが仕事において最も大切にしている価値観は何ですか?(例: 成長、貢献、安定、自律性、チームワークなど)
- どのような状況で最もエネルギーを感じ、どのような状況でエネルギーを消耗しますか?
- あなたの得意なこと、強みは何ですか?(スキルだけでなく、考え方や行動パターンも含む)
- あなたが仕事をする上で譲れないこと、逆に苦手なことや助けが必要なことは何ですか?
- 過去にチームでうまくいった経験、そうでなかった経験から何を学びましたか?
これらの問いへの答えを紙に書き出す、ボイスレコーダーに吹き込むなどして言語化します。このプロセスを通じて、自身の内なる声や行動原理がより明確になります。
ステップ2:他者の「自分軸」に耳を傾け、理解する
次に、協働する他者にも多様な自分軸があることを理解します。これは、単に相手の意見を聞くということだけでなく、相手の価値観や背景、強み、考え方そのものを理解しようと努めることです。
- 積極的な傾聴: 相手の話を最後まで聞き、言葉の裏にある意図や感情を汲み取ろうと努めます。
- オープンな質問: 「なぜそう考えたのですか?」「その考えの背景には何がありますか?」など、相手の思考プロセスや価値観を引き出す質問をします。
- フィードバックを求める: 自身の考えや行動について他者からフィードバックを求め、異なる視点を取り入れます。
- 相互理解のための対話: 定期的にチームメンバーと仕事の進め方や価値観について話し合う機会を設けます。
他者の自分軸を理解しようと努めることは、相手への敬意を示すことにも繋がり、信頼関係の構築にも寄与します。
ステップ3:違いを認識し、多様性を受け入れる視点を持つ
自身の自分軸と他者の自分軸を理解する中で、違いがあることに気づくはずです。重要なのは、この違いを否定するのではなく、自然なものとして受け入れ、多様性として尊重する視点を持つことです。
- 優劣をつけない: 自分の価値観や考え方が「正しい」と決めつけず、他者の価値観にもそれぞれの妥当性があることを認めます。
- 異なる視点を学ぶ機会と捉える: 自分とは異なる意見やアプローチから、新たな発見や学びがあると考えます。
- 共通の目標に焦点を当てる: 個々の違いを乗り越え、チームとして達成すべき共通の目標に意識を向けます。
多様性を受け入れることは、チームの創造性や問題解決能力を高めることにも繋がります。
ステップ4:自身の自分軸を活かし、他者の強みを引き出す連携
自身の自分軸を理解し、他者の多様性を受け入れたら、いよいよそれを協働に活かします。
- 貢献の機会を見つける: 自身の強みや価値観が、チームのどの部分で貢献できるかを考え、積極的に提案します。
- 役割分担の調整: 自身の得意なことや苦手なことを正直に伝え、チーム全体のバランスを見ながら最適な役割分担を模索します。
- 他者の強みを認識し、協力を仰ぐ: 他者の自分軸(強みや得意なこと)を理解しているからこそ、適切なタイミングで協力を仰ぎ、チーム全体の力を引き出すことができます。
- 建設的な意見交換: 自身の意見を自分軸に基づいて誠実に伝えつつ、他者の意見にも耳を傾け、より良い結論を導き出すための対話を行います。
自分軸を明確に伝えることは、周囲からの理解を得やすくなり、孤立を防ぐことにも繋がります。
ステップ5:価値観の衝突に建設的に対処する
どんなに相互理解に努めても、価値観の衝突が起こる可能性はあります。重要なのは、これを避けたり感情的に反応したりするのではなく、建設的に対処することです。
- アサーション: 相手を非難せず、自身の感情、ニーズ、意見を「私はこう感じます」「私はこう考えます」と誠実に伝えます。
- 問題解決志向: どちらかの意見を押し通すのではなく、双方にとってより良い解決策を共に探る姿勢を持ちます。
- 一時的な距離: 対話が感情的になりそうな場合は、一時的に距離を置き、冷静になってから再開することも検討します。
衝突を通じて互いの理解を深め、関係性を強化することも可能です。
まとめ
外部に流されない確固たる自分軸は、他者との協働においても強力な羅針盤となります。自身の内なる声に耳を傾け、価値観を明確にすることは、多様な意見が飛び交うチームの中で、自身の貢献の方向性を見出し、他者との違いを尊重し、より健全で生産的な関係性を築くための土台となります。
ご紹介したメソッドは、すぐに完璧にできるようになるものではありません。日々の仕事や人間関係の中で、自身の内省と他者への関心を継続的に持ち続けることが重要です。自分軸を大切にしながら他者と協働する実践を積み重ねることで、閉塞感を感じていた状況から一歩踏み出し、表面的な成果だけでなく、人との繋がりの中で深い充足感を見出すことができるでしょう。
確固たる自分軸は、孤立を選ぶことではありません。それは、自分自身を深く理解することで、他者との違いを認識し、尊重し、そして共に目標に向かう力を育むことに繋がるのです。