実績にしがみつかない。自分軸で「次の自分」を見つける探求メソッド
過去の実績が「次の自分」への足枷となる理由
多くのビジネスパーソンは、これまでのキャリアで積み重ねた実績や、評価されてきた得意なことによって自己を定義し、外部からの期待に応えようと努めています。これは、プロフェッショナルとしての信頼を築き、一定の成功を収める上で不可欠なプロセスです。しかし、時間の経過とともに、内面に閉塞感や違和感が生じ、「このままで良いのだろうか」「本当に自分がやりたいことは何だろう」といった疑問を抱くことがあります。
これは、過去の実績や得意なことが、いつの間にか自分自身の「コンフォートゾーン」や「固定観念」となり、内面の変化や新しい可能性の探求を阻む足枷となっている可能性があるためです。外部からの評価や過去の成功体験は、安心感や自己肯定感をもたらしますが、それが強固すぎると、内なる声に耳を傾けたり、未知の領域に一歩踏み出したりすることを躊躇させてしまいます。
自分軸を見つけ、外部に流されない確固たる自己を築くためには、過去の実績や得意なことといった外部評価の基準から一度離れ、内面の声に改めて向き合う必要があります。ここでは、過去の実績にしがみつくことなく、自分軸で「次の自分」を探求するための実践的なメソッドをご紹介します。
過去の実績・得意なことが足枷となる構造
過去の実績や得意なことが、なぜ新しい可能性への一歩を妨げることがあるのでしょうか。その背景にはいくつかの心理的な要因が考えられます。
まず、「コンフォートゾーン」への固執が挙げられます。実績を上げた領域は、自身が能力を発揮でき、評価を得やすい安全な場所です。ここから外れることへの不安や、新しい領域での失敗への恐れが、現状維持を選択させます。
次に、外部からの期待に応え続けたいという心理です。過去の成功によって周囲からの期待が高まると、その期待に応え続けることが自己目的化しやすくなります。これは、外部の評価基準に自分軸が乗っ取られている状態とも言えます。
さらに、過去の成功体験が「自分はこういう人間だ」という固定観念を生むことがあります。「自分は分析が得意な人間だ」「自分はリーダーシップを発揮すべき人間だ」といった自己定義が、内面の変化や新たな興味の出現を無視する原因となります。
そして、新しいことへの挑戦に対する本能的な恐れです。未知への挑戦には失敗のリスクが伴います。過去に成功体験がある人ほど、その成功が揺らぐことへの恐れが大きくなる傾向があります。
これらの要因が複合的に作用し、過去の実績という「栄光の檻」に自らを閉じ込めてしまう可能性があります。
自分軸で「次の自分」を見つけるための探求メソッド
過去の実績や得意なことを足枷にせず、自分軸で新たな可能性を探求するためには、意識的な内省と行動が必要です。以下にそのための具体的なメソッドをご紹介します。
ステップ1:過去の実績・得意なことと現在の内なる声を切り離して認識する
まず、過去の実績や外部からの評価、そして得意なことに関する自己認識を、現在の内面の感覚や興味・関心から一旦切り離して客観視します。
- ワーク:
- これまでに特に評価された実績や、周囲から「得意だね」と言われたこと、あるいは自分自身で「これは得意だ」と感じていることを10個ほどリストアップします。
- 次に、それらの実績や得意なことを遂行していた「当時の自分」の感情や動機、価値観を思い出して書き出します。
- そして、現在の自分が、仕事やプライベートで「なぜか心惹かれること」「もっと知りたいと思うこと」「やっていて時間が経つのを忘れること」などをリストアップします。これは、過去の実績や得意なことと直接関連していなくても構いません。
- 最後に、リストアップされた過去の自分と現在の自分を比較し、どのような変化があるのか、過去の自分が現在の自分をどの程度制限していると感じるかを観察します。この段階では、善悪の判断をせず、ありのままを認識することが重要です。
ステップ2:過去の延長線上ではない、新しい「内なる興味・関心」を探求する
過去の自分から一度距離を置いたら、次は現在の内なる声、つまり「自分軸」が指し示す新しい興味・関心を探求します。
- ワーク:
- ステップ1でリストアップした現在の興味・関心に加え、「もし時間やお金、外部からの評価を一切気にしなくて良いとしたら、何を探求したいか?」という問いを立て、自由にアイデアを書き出します。
- これらは、キャリアに直接結びつく必要はありません。単なる知的好奇心、やってみたいこと、行ってみたい場所など、些細なことでも構いません。
- リストの中から、特に心惹かれるものをいくつか選び、それらについてリサーチしたり、関連書籍を読んだり、詳しい人に話を聞いたりする「小さな実験」を計画します。例えば、「アートに興味がある」なら、美術館に行く、アート関連のYouTubeを見る、絵のワークショップに参加するなどです。
- これらの実験を通じて得られる気づきや感情の変化を丁寧に記録します。これは、自分軸が本当に反応している方向性を見つける手がかりとなります。
ステップ3:過去の「強み」を「足枷」ではなく「資源」として再定義する
過去の実績や得意なことは、決して無価値になったわけではありません。それらは、新しい可能性を探求する上での貴重な「資源」として活用できます。重要なのは、それを過去の自分を固定する足枷としてではなく、未来の自分をサポートする道具として捉え直すことです。
- 視点の転換:
- 過去の成功の「内容」そのものに価値を置くのではなく、その成功を収める過程で培われた「メタスキル」や「経験則」に焦点を当てます。例えば、プロジェクトを成功させた経験は、「困難な状況でも目標達成に向けて計画し、関係者を巻き込み、粘り強く実行する力」というメタスキルとして捉えられます。
- 得意なことを、「この領域しかできない自分」という制限ではなく、「この領域で培ったスキルや知識を、新しい興味・関心とどのように組み合わせられるか」という視点で検討します。例えば、データ分析のスキルを、アートに関する興味と組み合わせ、データアートを探求するといった応用的な発想です。
- 過去の経験から得た学びや、乗り越えてきた困難から培われたレジリエンスも、新たな挑戦において役立つ強力な資源です。
ステップ4:小さな「次の自分」への一歩を踏み出す
探求を通じて見えてきた新しい可能性や、再定義された過去の資源を活用し、具体的な行動へと移します。この際、完璧な計画を立てるのではなく、「実験」として捉えることが、失敗への恐れを軽減し、柔軟な対応を可能にします。
- 実践のステップ:
- ステップ2で見つけた新しい興味・関心や、ステップ3で再定義した過去の資源を活用する、小さな行動目標を設定します。(例:「週に1時間、新しい分野のオンライン講座を受講する」「関心のあるテーマに関する書籍を1冊読む」「社内外の勉強会に一つ参加する」など)
- この目標は、達成のハードルを低く設定し、継続しやすいものにすることが重要です。
- 行動することで得られる気づきや、感じたこと、変化を記録し、定期的に振り返ります。これは、自分軸の方向性を微調整し、次の実験のアイデアを得るために役立ちます。
- 結果にとらわれすぎず、プロセスそのものから学びを得る姿勢を大切にします。失敗は「次の自分」を見つけるための貴重なデータとなります。
まとめ:自分軸は過去ではなく「いま、ここ」にある
過去の実績や得意なことは、これまでの自分を形成してきた重要な要素です。しかし、自分軸は固定されたものではなく、内面の成長や変化と共に常に探求し、アップデートしていくものです。過去に縛られず、「いま、ここ」にある内なる声に耳を傾け、小さな一歩を踏み出すこと。それが、「次の自分」を見つけ、外部に流されない、より深い充足感に満ちた生き方を実現するための鍵となります。過去の実績は、誇るべき土台ではありますが、未来を制限するものではありません。自分軸という羅針盤を手に、自身の内なる可能性を自由に探求し続けてください。