外部の成功定義に縛られない。自分軸でキャリアパスを問い直す実践メソッド
多くのビジネスパーソンが、一定のキャリアを築いたにも関わらず、どこか満たされない感覚や閉塞感を抱えています。これは、外部からの期待や社会的な「成功」の定義に合わせてキャリアを歩んできた結果、自身の内面との間に乖離が生じていることが原因の一つとして考えられます。
外部の成功定義に囚われることの閉塞感
私たちは社会の中で生きる上で、無意識のうちに様々な外部基準に影響を受けています。「良い学校を出て、大手企業に入り、昇進して、高い収入を得る」といった一般的な成功イメージは、その典型と言えるでしょう。こうした外部からの期待や社会的な評価をモチベーションにキャリアを積むことは、一時的な達成感や安心感をもたらすことがあります。
しかし、外部基準はあくまで社会が作り出した「型」であり、個人の内面的な充足や幸福と必ずしも一致するわけではありません。外部の成功を追い求める過程で、自身の本当に大切にしたい価値観や情熱が置き去りにされ、結果として「このままで良いのだろうか」「何のために働いているのだろうか」という疑問や閉塞感を抱くことがあります。特にキャリア経験を重ね、一定の成果を上げたビジネスパーソンほど、表面的な成功だけでは満たされない、より深い意味や充足感を求めるようになる傾向が見られます。
なぜ外部基準でのキャリア形成は充足につながらないのか
外部の成功定義に基づいたキャリア形成が、必ずしも内面の充足につながらないのには、いくつかの理由があります。
まず、自己内省の不足です。外部基準を追うことに意識が向きすぎ、自分自身の強み、弱み、興味、価値観といった内面と向き合う時間が十分に取れていない場合があります。自身の核を理解しないまま外部の型に合わせようとするため、無理が生じたり、違和感を覚えたりします。
次に、価値観の多様性の無視です。社会的な成功基準は、あくまで数ある価値観の中の一つに過ぎません。個人の内面には、貢献、創造性、安定、成長、人間関係、自由など、多様な価値観が存在します。外部の画一的な基準に囚われることは、自身の多様な価値観を否定することにつながりかねません。
さらに、変化への恐れも関係しています。これまでのキャリアは、外部基準に合わせて懸命に努力し、積み上げてきたものです。それを問い直すことは、これまでの自分を否定するように感じられ、大きな不安を伴います。そのため、内面の違和感に気づきながらも、問い直しを避けてしまうことがあります。
自分軸でキャリアパスを問い直す実践メソッド
では、外部の成功定義から解放され、自分軸でキャリアパスを問い直すためには、具体的にどのようなステップを踏めば良いのでしょうか。以下に、実践的なメソッドをご紹介します。
ステップ1:自分が囚われている「外部の成功定義」を特定する
まずは、自分が無意識のうちにどのような外部基準に影響を受けているのかを認識することから始めます。
- 自分が「成功」と聞いて思い浮かべるものは何か?
- 周囲の人々(同僚、友人、家族)が「成功している」と見なす基準は何か?
- インターネットや書籍などで見かける「理想のキャリア」のイメージはどのようなものか?
- 過去、自分が「こうなるべきだ」と考えていたキャリア像は、何に影響されていたか?
これらの問いを通じて、自分の中に内面化されている外部基準を具体的に書き出してみてください。例えば、「年収〇〇万円以上」「役職〇〇」「誰もが知る有名企業に勤める」といった具体的な基準だけでなく、「常に忙しくしているのが偉い」「プライベートを犠牲にしてでも仕事に打ち込むべきだ」といった価値観も含まれるかもしれません。これらを客観的に観察することが第一歩です。
ステップ2:自己内省を通じて「核となる価値観」を特定する
次に、外部基準と対比させる形で、自分自身の核となる価値観を深く掘り下げていきます。自己内省を深めるためのフレームワークが有効です。
- 人生のピーク/どん底体験の分析: これまでの人生で最も喜びや充実感を感じた瞬間、最も困難や苦痛を感じた瞬間を振り返り、それぞれで「何が重要だったか」「何が不足していたか」を分析します。そこに自身の価値観のヒントが隠されています。
- 「もしお金や時間の制約が一切なかったら、何をしたいか?」と自問する: 現実的な制約を取り払うことで、純粋な興味や情熱、大切にしたいことに気づきやすくなります。
- 「腹が立ったこと、悲しかったこと」から逆算する: 強い負の感情の裏には、侵害されたくない大切な価値観があることが多いです。
- 「尊敬する人、憧れる生き方」に共通する要素を見つける: その人のどのような点に惹かれるのかを分析することで、自身の理想とする価値観が見えてきます。
これらの問いを通じて、自分にとって本当に大切な価値観を5つ程度特定し、言語化します。例えば、「貢献」「成長」「自由」「安定」「創造性」「人間関係」「健康」「学び」などです。
ステップ3:自分にとっての「充足」を定義する
特定した核となる価値観に基づき、「自分にとっての充足とは何か」を具体的に定義します。外部の成功定義ではなく、自分だけの「物差し」を作り出す作業です。
- 特定した価値観が、キャリアや仕事においてどのような形で満たされる時に「充足」を感じるのか?
- その充足感は、具体的な行動や状態としてどのように表現できるか?
例えば、「成長」という価値観を大切にする人にとっての充足は、「新しいスキルを習得している」「困難な課題に挑戦している」「知識や経験が深まっている」といった状態かもしれません。「貢献」であれば、「自分の仕事が誰かの役に立っている実感がある」「チームや組織に良い影響を与えている」といった状態が充足につながるでしょう。これらの定義を具体的に、個人的な言葉で表現してください。
ステップ4:現在のキャリアを「自分軸」で評価する
ステップ3で定義した自分にとっての充足感という「物差し」を使って、現在のキャリアや仕事ぶりを評価します。
- 現在の仕事は、特定した価値観をどの程度満たしているか?(例: 貢献度は高いが、成長機会は少ない など)
- 現在のキャリアパスは、自分にとっての充足にどの程度つながっているか?
- 外部の成功定義に合わせて行動している部分と、自分軸で行動できている部分のギャップはどのくらいあるか?
客観的な事実(役職、年収など)ではなく、あくまで自分の内面的な充足度という観点から評価することが重要です。この評価を通じて、現在のキャリアにおける強みと、自分軸との乖離が生まれている部分が明確になります。
ステップ5:キャリアパスを「再設計」するための選択肢を探求する
自分軸との乖離が見つかった場合、それを埋めるための具体的な選択肢を探求します。キャリアパスの再設計というと、転職や起業といった大きな変化を想像しがちですが、それだけではありません。
- 現在の会社内での変化: 部署異動、新たなプロジェクトへの参画、役割の再定義、社内兼業・副業制度の活用など。
- キャリアの拡張: 副業、プロボノ活動、ボランティア、NPOでの活動など、本業以外の場で価値観を満たす機会を持つ。
- 学習・スキルアップ: 自分の価値観に関連する分野の学習を深める、資格取得など。
- ワークスタイル: フレックスタイム、リモートワーク、時短勤務など、働き方を変えることで価値観を満たす時間を確保する。
- 転職・起業: 現在の会社ではどうしても自分軸が満たされない場合の選択肢として検討する。
ステップ2で特定した価値観とステップ3で定義した充足感を満たせる可能性のある選択肢を、柔軟な発想でリストアップしてみてください。
ステップ6:自分軸に基づいた「最初の一歩」を踏み出す
リストアップした選択肢の中から、最も自分軸に近く、現実的に取り組めそうなものを選び、小さくても良いので最初の一歩を踏み出します。
- 興味のある分野のオンライン講座を受けてみる。
- 社内の別部署の人に話を聞きに行く。
- 関連するコミュニティに参加してみる。
- 副業やプロボノで、小さく始めてみる。
- 働き方を変えられないか上司に相談してみる。
最初から完璧なキャリアパスを描こうとする必要はありません。小さく試してみて、手応えや内面の変化を確認しながら、次のステップを検討していくのが現実的です。
実践のヒントと注意点
このメソッドを実践する上で、いくつか重要なヒントと注意点があります。
- 一度で答えを出そうとしない: 自分軸の探求やキャリアの再設計は、時間のかかるプロセスです。焦らず、継続的に内省と行動を繰り返してください。
- 変化に伴う不安と向き合う: 新しい一歩を踏み出す時には、必ず不安が伴います。それは自然な感情であることを受け入れ、その不安を乗り越えるための具体的な行動(情報収集、スモールスタートなど)に集中することが有効です。
- 完璧主義を手放す: 全ての価値観を一度に満たそうとしないことです。現時点での優先順位をつけ、まずは最も重要な価値観を満たすことに焦点を当てるのも一つの方法です。
- 周囲とのコミュニケーション: キャリアパスの変更は、周囲(家族、同僚、上司など)に影響を与える可能性があります。自分の考えや価値観について誠実に話し合い、理解を求める姿勢が大切です。
まとめ
外部の成功定義に縛られたキャリアは、たとえ社会的に認められても、内面的な充足感が伴わない場合があります。自分軸でキャリアパスを問い直すことは、表面的な成功を追いかけるのではなく、自身の核となる価値観に基づいた、より本質的な充足感を追求するプロセスです。
このプロセスは、自己内省、価値観の特定、自分にとっての充足の定義、そして具体的な行動というステップを通じて行われます。一度で完璧な答えが見つからなくても、繰り返し自身と向き合い、小さな一歩を踏み出すことで、外部の喧騒から離れ、自分だけの羅針盤に従って進むべき道が見えてくるはずです。
キャリアの閉塞感は、自分軸に立ち返り、新たな可能性を探求するためのサインかもしれません。ぜひこのメソッドを活用し、あなたにとって本当に意味のある、充足感に満ちたキャリアを自らの手で再設計してください。