外部に流されない。核となる価値観に基づいた意思決定フレームワーク
外部の期待と自己の羅針盤:なぜ意思決定は難しいのか
私たちの日常生活やキャリアにおいて、日々様々な意思決定が求められます。小さなことから、人生を左右するような大きな決断まで、その種類は多岐にわたります。特に、一定のキャリアを積み、社会的な期待や責任が増してくる中で、意思決定の重みは増していく傾向にあります。
多くのビジネスパーソンが直面するのは、外部からの期待、社会的な常識、周囲の評価といった「外からの声」と、自身の内面から湧き上がる「こうありたい」「これを大切にしたい」という「内なる声」との間の葛藤です。この葛藤は、キャリアの選択、働き方の見直し、人間関係の構築など、多くの場面で意思決定を複雑にします。
外部の声にばかり耳を傾けて意思決定を行うと、一時的には周囲からの承認を得られるかもしれませんが、次第に自身の内面との乖離を感じ、深い閉塞感や充足感の欠如につながることがあります。これは、自己の核となる価値観とは異なる方向に進んでいるサインかもしれません。
確固たる自分を築き、外部に流されずに主体的な選択を行うためには、自身の「核となる価値観」を羅針盤として、意思決定を行うことが不可欠です。
価値観に基づいた意思決定がもたらすもの
価値観に基づいた意思決定とは、単に自分の感情に任せることではありません。自身の最も重要とする信条や原理原則を理解し、それを判断基準の中心に置くプロセスです。この方法で意思決定を行うことで、以下のような変化が期待できます。
- 後悔の軽減: 外部の基準ではなく、自身の価値観に沿った選択であれば、たとえ結果が期待通りでなかったとしても、「自分にとって正しい選択だった」と納得しやすくなります。
- 自己肯定感の向上: 自身の価値観を尊重した行動は、自己との一貫性を保ち、自己肯定感を高めます。
- 主体性の回復: 外部の圧力から解放され、自らの意思で人生やキャリアを切り拓いている感覚を得られます。
- エネルギーの集中: 本当に大切にしたいことに時間やエネルギーを注げるようになり、生産性や充実感が高まります。
では、具体的にどのようにして価値観に基づいた意思決定を行えば良いのでしょうか。ここからは、そのための実践的なフレームワークをご紹介します。
核となる価値観に基づいた意思決定フレームワーク
このフレームワークは、意思決定のプロセスを段階的に進めることで、あなたの核となる価値観を判断基準として明確に活用することを目的としています。
ステップ1:核となる価値観を再確認する
最初のステップは、意思決定を行う前に、自身の核となる価値観を改めて明確にすることです。もし、まだ自身の価値観が曖昧な場合は、過去の経験で「喜びを感じた瞬間」「怒りや不満を感じた瞬間」などを振り返り、「なぜそう感じたのか」を掘り下げてみてください。そこから見えてくる共通の要素が、あなたの価値観の手がかりとなります。
- 実践例:
- 静かな時間を取り、過去の出来事や、惹かれる人物・考え方などを書き出してみる。
- 「仕事で最も大切にしていることは何か?」「人生で絶対に譲れないことは何か?」といった問いに答えてみる。
- すでに価値観を特定している場合は、リストを見返して、その価値観が今のあなたにとっても重要であるかを確認する。
(参考:「自分軸メソッド」の別の記事で、価値観特定の具体的なメソッドを紹介していますので、そちらも併せてご参照ください。)
ステップ2:意思決定の対象となる課題・状況を明確にする
意思決定が必要な具体的な課題や状況を客観的に記述します。何について決定する必要があるのか、その背景は何か、どのような結果を目指しているのかを明確に定義します。
- 実践例:
- 「現在の部署に留まるか、新規プロジェクトチームに異動するか」
- 「週末の時間を、自己研鑽に充てるか、家族との時間に充てるか」
- 「昇進のオファーを受けるか、別の道を模索するか」
ステップ3:複数の選択肢を洗い出す
直面している課題や状況に対する可能な選択肢を、できる限り多く洗い出します。一見非現実的と思える選択肢も、この段階では排除せずリストアップすることが重要です。
- 実践例: ステップ2の例「現在の部署に留まるか、新規プロジェクトチームに異動するか」に対して
- 選択肢A:現在の部署に留まる。
- 選択肢B:新規プロジェクトチームに異動する。
- 選択肢C:異動の条件交渉をする。
- 選択肢D:部署異動ではなく、社内での別の機会を探す。
- 選択肢E:転職を検討する。
ステップ4:各選択肢が自身の価値観とどの程度一致するかを評価する
洗い出した各選択肢について、ステップ1で明確にした自身の核となる価値観リストと照らし合わせます。それぞれの選択肢を実行した場合、あなたの価値観はどの程度満たされる(あるいは満たされない)かを評価します。
- 実践例:
- 縦軸に選択肢、横軸に自身の価値観を並べたマトリックスを作成する。
- それぞれのセルに、選択肢が価値観に与える影響を、「+」(ポジティブな影響)、「-」(ネガティブな影響)、「0」(影響なし)などで記録する。影響の度合いを数値化(例: +2, +1, 0, -1, -2)しても良いでしょう。
- 価値観に優先順位をつけている場合は、優先度の高い価値観への影響をより重視して評価を行います。
ステップ5:価値観の優先順位に基づき、最適な選択肢を決定する
ステップ4の評価結果を踏まえ、自身の価値観全体との整合性が最も高い選択肢を決定します。全ての価値観を完全に満たす選択肢がない場合でも、どの選択肢が最も多くの、あるいは最も重要な価値観を満たすかを基準に判断します。この際、直感や感情も無視せず、論理的な評価と内的な感覚を統合することが望ましいです。
- 実践例: マトリックスの評価結果を基に、各選択肢の価値観に対する総合的な影響度を比較する。価値観の優先度が高い項目でプラス評価が多い選択肢を優先的に検討する。最終決定を下す前に、信頼できる友人やメンターに相談することも有効ですが、あくまで最終的な判断は自身の価値観に基づいて行うようにします。
ステ6:決定を実行し、結果を振り返る
決定した選択肢を実行に移します。そして、一定期間後にその結果を振り返ります。意図した結果が得られたか、価値観は満たされたか、新たな学びはあったかなどを検証します。この振り返りを通じて、自身の価値観や意思決定プロセスへの理解を深め、今後の意思決定に活かしていきます。
- 実践例: 決定から数週間、数ヶ月後に、決定時の目標や期待、実際に得られた結果、感じたことなどをジャーナルに記録する。この経験から、自身の価値観や意思決定のパターンについてどのような洞察が得られたかを考察する。
実践における注意点と価値観の進化
このフレームワークは万能ではありません。全ての意思決定にこの重厚なプロセスを適用する必要はありません。日常の些細な決定は、迅速に行っても問題ないでしょう。重要なのは、キャリアの転換点や、人生において譲れない局面など、自身の幸福度や充足感に大きな影響を与える可能性のある意思決定において、意図的に価値観を考慮に入れることです。
また、価値観は固定的なものではなく、人生経験や成長に伴い変化することもあります。定期的に自身の価値観を見直し、必要であれば更新することも、自分軸を保つ上で重要なプロセスです。
まとめ
外部の期待や社会的な圧力に流されず、核となる価値観に基づいた意思決定を行うことは、主体的な人生を築き、深い充足感を得るための鍵となります。今回ご紹介したフレームワークが、あなたが自身の羅針盤を信頼し、後悔のない選択をしていくための一助となれば幸いです。自身の内なる声に耳を傾け、価値観を指針とする勇気を持つことから、確固たる自分軸は育まれていきます。